その若者は嘘をつくことが嫌いだった。でも、生きていくには嘘とつかないとダメなときもあるのも知っていた。それでも嘘をつくことに嫌悪感を覚えていたのも事実である。小さな嘘が重なると噂だけがひとり歩きをして、やがて大きな嘘となり、隠しきれなくなるのである。嘘をつけば、嘘を隠すために嘘を上塗りするから、最後にはその嘘が人をのみこんでゆくのである。嘘も方便とあるが、方便として嘘を利用するようになるのは、大人になってからでないと到底無理である。
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人間は嘘のかたまりである
人まえでは いい恰好をするために嘘をつく
そして その嘘を隠すためにまた嘘をつく

人間は嘘とつくことによって 欲求を満たす
人間の心は醜いのである
口では何とでも言える
でも 心の中にはいつも どす黒い何かが渦巻いている

人間は自分だけ良ければいいと いつも思っている
相手をけちらかすために嘘をつく
今の世の中きれいごとばかり言っている
真実なんか求めちゃいない
いざとなれば 人間は自分だけが良ければいいと思っている

人間は自分だけを可愛がる
自分を可愛がるために嘘をつく
いつわりで固められた人間の心
顔にそれが 醜くあらわれている
あいつも こいつも

人間は醜い顔を 嘘で隠しているのである
真実を求めるとそれは・・・
とても 口にださない

口先だけの人間
いや 自分は違うと言っても無駄なこと
我々は 人間なんだから
一皮むけば それは
醜い心のかたまりである

1982年5月24日