その若者の恋愛経験は、どうだったのか?全くもってもてなかったようだ。近所に住んでいた顔なじみの女の子のことが幼稚園のときからずっと好きだった。その女の子は自宅から歩いて2分のところに住んでいた。中学生までは同じ学校。高校で別れてしまったが、通学のときにに電車でいっしょになることもあった。でも結局は、告白もできず片思いのままであったが、それはそれであまずっぱい青春の1ページだと思う。高校のときにテニス部にはいり、学校から帰ってから壁打ちをよくしていたのだが、その場所から女の子の家の窓が見えていた。ときどき、その窓から壁打ちをしている自分を眺めていた。ひょっとして、自分のことが好きなのか?妄想癖は、ここが原点なのかもしれない。その女の子とはそれっきりだった。
初めてデートしたのは、16歳だった。好きだった女の子とは関係ないが、中学時代に同じクラスだった女の子で、その当時仲の良かった中学時代からの友人の応援もありデートに誘ってみた。中学卒業後1年半が経過していた。
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16歳の夏休み
憧れの君とはじめてのデート
午後2時、君はまだ来ない
心臓が張り裂けそう
少し遅れてやって来た君
少しほっとした
そのとき 君は何か言ったのかな
でも、気のせいかも
単なる雨の音
もうし訳なさそうに雨が降っていた
君は元気なかったよね
何度も話かけたけど
未来のこと 学校 友人 そして2人のこと
君は それなのに
黙ってしまったり 首をかしげたり
心を 開いてくれー
沈みかけた鉛の玉を 必死に浮き上がらせようと心で思った
知らないうちに 雨はやんでいた
少し濡れたアスファルト
なぜか気になった
君といっしょに映画館にはいった
君はパサついた髪をしきりに触っていた
映画が終わり 外にでて
髪に触るの癖?と尋ねると
やっと微笑でくれた
でも 白い歯だけが目立った
雨はすっかりやんでいた
笑うような顔つきで見ている雲
今にも 雨を降らせるぞとにらむ
そんなに にらむなよ
君と喫茶店にはいった
コーヒーの香りはなかった
つきあってほしい
沈黙の時が流れる
君の言葉は
ごめん
ただ いたずらに時間が過ぎてゆく
心臓の鼓動が 時計の秒針のようにはっきりとわかった
雨で濡れていたはずのアスファルト
いつのまにか 乾いていた
君が 失恋したことを知った
自分が失恋してしまった
苦笑いもできなかった
今日の人生初めてのデート
空には 少し晴れ間がでていた
でも すぐに雲が覆う
いたずら好きな雲
最後の言葉は
ありがとう
君は
バイバイ
目の前の横断歩道を 君は歩いてゆく
君の行くのを見届けて
車の音も 人の雑踏も 耳にははいらなかった
瞳に映ったものは いたずら好きな雲と ほとんど乾いたアスファルト
自分の部屋にとじこもる
やがて 眠ってしまった
目が覚めると 陽は沈みかけていた
雨は すっかりやんでいた
君の顔が脳裏に映る
走馬燈のように 今日のできごとが 蘇る
雨上がりの夕陽
広い窓から見た空は Pail Orange
樹木の葉に 必死つかまろうとする露が
夕陽に照らされて 落ちてゆく
その 露って 自分?
独り言を言った
これでいいんだ 時間が解決するさ
自分は自分 君は君
下から母の声がする
ごはんできたよ
今降りる!!
あと4日で 夏休みは終わろうとしていた
1981年8月27日